とある憲法と自衛隊に関する往復メール

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、僕は『平和台 九条の会』という団体の呼びかけ人&事務局をしております。一般的な九条の会会員は自衛隊反対の方が多いのですが、僕としては「存在するべきだ」っていう意見を持っています。ちょっと異端ですw


そんな僕と、とある自衛官の友人の間で交わした往復メールをご紹介したいと思います。
自衛隊を認めるために九条を変えなくちゃダメ」
「九条の理想を実現するために自衛隊を無くさなきゃダメ」
そういった固定的な捉え方ではなく、こんな考え方もあるんだという参考にでもなればと思います。


もう過ぎてしまいましたが、憲法記念日に寄せて…。


※ 改行や個人名に関しては、編集しております。
※ 長いので、関心のある方だけどうぞ〜。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


こめより
【こんばんは!】


ちょっとお願いがあって、メールします。


15日の日曜日に、『平和台 九条の会』の例会があります。今回のテーマが「九条を変えたいという意見について考える」というもので…。良かったら、○○さんの意見を聞かせてほしいのです。
僕個人としては今のままが良いと思ってるけど、それが100%正しいとも全く思っておらず。変な賛成意見より、理性的で現実的な○○さんの反対意見の方が、よっぽど参考になると考えております。


お忙しいこととは思いますので無理にとは言わないけど、よかったらお願いします!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


友人より
【とっても長いです。】


こんばんは!
いち自衛官の偏った(かつ拙い)私見ではございますが、欠片でも参考になれば幸いです。


日記で何度か述べた通り、俺は現状として憲法肯定に至っておりません。
憲法9条に肯定的でない理由が大まかに3つあります。


ひとつめは、憲法は国の最高法規でこそあれ世界の最高法規では無い事。
これは法規の立ち位置に対する疑問です。
ふたつめは、日本国憲法は日本の日本による日本の為の法規では無い事。
これは内容に対しての疑問です。
最後に、【恒久の平和】はこの国だけが掲げれば実現する訳でないこと。
これは国の在り方に対する疑問です。


具体的に述べます。
まずは憲法の立ち位置。
ご存知の通り憲法とは【国の根本法】であり【国そのもの】です。
言い換えると【日本の中はそうします、そうしてます】と言う事ですね。
日本国の意見として不戦に重きを置く事に関して些かの疑問もありませんが、戦わない事ではなく【戦わせない事】に対する法規として見た場合…どうでしょうか。
現実として対外的な意味を持つ筈の【領域】においてさえ侵犯や奪い合いが激化する今、ほとんど国内でしか責任や義務が生じない憲法は平和を謳うには少し効果圏が弱い、ならば形を変えなければ、と言うのが持論です。


ふたつめ、内容について。
ご存知の通り、日本国憲法を制定する際にはGHQの、言い換えれば国際情勢にすり寄る意見・方針が多分に含まれました。勿論当時の国民が議論しあって最終決定がなされたものではありますが、9条に限らず、本当に【自国の自国による自国の為の】法規なのか?と言う問いに対して断言しかねます。
例えば【一切の陸・海・空軍を所有しない】事に関して。核にしても戦闘機にしてもそうですが、抑止力としての武器が抑止力たりうるのは常にそれが驚異たりうるからです。
爆撃機に竹ヤリが、軍隊に農民が驚異たり得ない事を知らばこその【最低限の武力】なら、あえて軍は持たないと加える理由はなんでしょうか?他国にとって【ジャパニーズ・ミリタリー】に違いは無いのに。
…その方が他国から抗議をする際に都合が良いからではないでしょうか。
結果的に軍にするしないはともかく、法規で縛る事に日本にとって納得出来る理由はほとんど無い、これがふたつめの持論です。


みっつめ、国の在り方について。
これは前述したふたつのまとめかつ矛盾した意見です。
憲法に対外的な効果が無い、と書きましたが、実際のところ憲法改訂には他国の意見が常に付きまとうでしょうし、それ自体が争いの種ですよね。故に現状維持を掲げる方の読みは正しいと思います。
ですが、それが既に平和的でない。
軍を持つ国々が、何故日本の武装を拒むのでしょうか?それが憲法の現時点での立場だからです。
核も銃も同じです。誰かが保有してる限り手放した先に恒久の平和なんか有り得ない。


日本だけが平和に、なんて理想的どころか極めて破滅的な傍観者の意見です。
議論の否定になりますが、自国の憲法だけじゃ不可能な事で。
武器を捨て、あいたその手を他国と繋げて、初めて平和ですから。他国が納得して銃を捨てる形を実現出来ない限り、他国が手をあけない限り、現状は恒久の綱渡りだと考えてます。


導く答えが【憲法自衛隊が正しいかどうか】にすりかわってはなりません。
【結果平和でいれるのか】と言う部分が常に主眼でなければ。
必要なら変えなきゃなりませんし、変えるなら軽率であってはなりません。


武力の無い平和は、今のところ俺の拙い頭では幾通り錯誤を重ねてもイメージ出来ませんでした。
かと言って今の日本が平和的に上手く憲法の形を変える事もできるとは思いません。


変える必要があるなら
変える事が出来ないなら
違憲であれ必要なら
誰かが持たなきゃならないなら
俺は迷わず銃を取ります。
憲法より平和や国民を守りたいから。


事実取りました。
やり切れない思いもありますが
それが結論ですかね…(´・ω・`)


…最後に
自衛官じゃなく
ひとりの人間としての俺にとって
このままの日本で
いつか自衛隊の必要ない
優しい世界になる事が
いちばん幸せな答えである事を
付け足して締めくくりとさせて頂きます。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


こめより
【ありがとうございます!】


非常に納得のいく文でした。特に「他国と足並みを揃えて軍縮しなくては」というのは、僕自身も常々思っていることなので、頷きながら読ませてもらいました。


関連してですが、よく護憲論者の意見として「日本が平和憲法の先鋒となる」というのを目にします。ですがこれも、具体的にどのように他国まで効果を波及させていくのかまで考えていなくては、単なる理想論(それも、極めて危険な)だと思います。
『一国家として非戦争状態を保ちつつ、世界全体としてもそれを目指していく』…目標はここですが、ただ戦力を放棄するだけでは前者はどう考えても難しい。だから、僕は現状において自衛隊を無くすという言説にはどうしても賛成できないのです。それと矛盾するようですが、後半のためには憲法九条を「他国に対して示し続けてておく」ことも大切だと思っています。
理想と現実のすり合わせ…本当に難しいですね。


個人的には、根っこの部分で「戦争が無い状態を目指す」というのが一致しているのを感じて、とても嬉しかったです。


もし良かったら、○○さんなりに「どう憲法を変えたら良いか」の意見も聞かせてもらえたらありがたいです。護憲論者の言う「アメリカと協調して戦争をできる国にするためだ」なんて単純な目標では、決してないと思うので。
あ、もしお時間があったらで!ご無理はなさらず〜。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


少し間があり、こめより
【こんにちは!】


その節は、憲法に関する意見いただいてありがとうございました!
例会三回に渡って、元にした議論をさせていただきました。印象としては、「自衛隊=悪」みたいな捉え方をしていた人たちに、かなり衝撃を与えられたと思います。


職務本当に大変だと思いますが、どうぞ体には気を付けてくださいね。応援しています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


友人より
【こんばんは!】


いえいえ、むしろ返信しきれませんで申し訳ありません(´・ω・`)
微力でもお役に立てたのであれば幸いです(*´▽`*)


新しい憲法の形、に関しての私見です。


平和を語るなら!
そもそもこの広い地球の極東も極東、総人口の1割にも満たない少人数が暮らすばかりの島国が、
「我々【だけ】は不戦を貫きます!」
…と声高に叫んだところで、ごく矮小な効果しか得られない様に思います。


憲法は国の最高法規ですが、それ以上でも以下でもありません。
平和なんてものは一国が憲法を定めたくらいで自己完結出来る目標では到底なく。


例えば世界中が武器を持つことで戦いが無くなるならそうすべきでしょう。
武器アレルギーの方々はえてして【戦う手段(主に自衛隊)を持つべきかどうか】、に論点がすり替わりがちですが、語るべきは【平和のより建設的な実現案】なんですよね。


憲法の間違いは自衛隊の扱いなんて小さな話じゃなく、たかが島国の最高法規で全てが丸く収まるかの様なミスリードだと思います。


自分が戦わない為の最適解は武器を持たない事じゃなく【周りに戦わせない事】で、それはつまり憲法の力及ばざる部分がより多くのウェイトを占めると言う事で。


【各国の牽制と協力】が不可欠ですね。たとえば線でなく円の平和。
武力の行使が多大な被害を、行使しない事が少なからぬ利益をもたらす様な円卓的な(二国間のみでない)国家交流。
その為には互いの牽制になりうる剣が必要ですし、政治的なアプローチも肝要になります。
世界的にはそう言った思想が広まりつつありますし、憲法のしがらみを除いて日本も既に円卓の中にいます。


憲法の改正ならばそれを踏まえて…
一切の軍事力を持たない→保有する一切の武力を自国の利得の為に行使しない
…とするのが良いかもしれません。


いまいち具体性に欠けますが、つまりは「今のまま頭ごなしに押さえつけるようでは自衛隊がいようがいまいが好転はしない」かな、と言うのが俺の意見です。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


こめより
【Re:こんばんは!】


円の平和、すごく納得です。三國志の「天下三分の計」も元は近い発想だったんですよねぇ。あれは、戦力バランスが伴わなかったからこそ成功しなかったわけで。
多様な価値観(国家)が相互に過干渉せず付き合っていくためには、そういうのも必要だよな〜って思います。


最近すごく思うのが、「情勢を判断できない社会運動に未来はない」ってことです。3.11に郡山でデモやっちゃった反原発団体なんかもそうですけど。
世論の90%以上が自衛隊を素晴らしいものだと感じている中で「無くすべきだ」なんていうのは、自殺行為だろって思っちゃいます。それが必要な時もあるかもだけど、きっと今ではない。


改憲論がみんな○○さんみたいに、現実に立脚して冷静に判断した結果なら、きっと問題ないんでしょうけどね…。そういう方ばかりでないのがまた悩ましい。明らかにジャイアニズム全開の方もいらっしゃるので。。。
だからこそ、9条という「国家に対する抑止力」もまた必要だと感じてしまいます。どっちに暴走しても、平和は崩れてしまうでしょうから。
いやしかし、「基本的には攻めない、けどいざとなったら攻めるかも」というバランスを保つのって難しいですね。


っと、つらつらと愚痴めいたものまで書いちゃいました。
また何かの折には相談させてください。改めて、ありがとうございました!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


以上です。


様々なご意見、あると思います。ですが、あくまでも「私見同士」を往復したものであることはご了承いただけたらと思います。


もちろん、憲法策定にあたってどこまでGHQの意見が反映されたか…ということもあるでしょう。国家に対する抑止力である『憲法』によって、実際の安全性(特に自衛隊の皆さんの)が脅かされている側面もあるでしょう。


それでも僕は、『九条』と『自衛隊』が同時に存在する現状だからこそ、保たれている平和というものもあるのではないか…と考えるのです。